FNCA2024気候変動(森林土壌炭素放出評価)プロジェクトワークショップ
概要
2024年10月15日〜17日
日本、広島
[ワークショップ]
2024年度の気候変動(森林土壌炭素放出評価)(ECEFS)プロジェクトのワークショップは、2024年10月15日から17日にかけて、日本の文部科学省(MEXT)の主催により広島県広島市で開催されました。
中国、インドネシア、日本、カザフスタン、マレーシア、フィリピン、タイ、及びベトナムの8カ国が参加し、参加人数は事務局を含め計29名でした。
[オープンセミナー]
10月17日の午前中に、オープンセミナー開催されました。
FNCA日本コーディネーターの玉田正男氏がFNCAの活動を概説し、NIESの梁乃申氏が、地球温暖化に対するアジアの森林土壌の反応とフィードバックを紹介しました。次に国際農林水産業研究センターの近藤俊明氏が、温室効果ガスを放出・吸収する土壌生物について概説しました。最後に東京大学教授の松崎浩之氏が、加速器質量分析法による14C測定について発表しました。
[テクニカルビジット(フィールドワーク)]
10月17日の午後、東広島市でテクニカルビジット(フィールドワーク)が開催されました。小嵐淳氏と梁乃申氏が、ワークショップの参加者を土壌温暖化実験林サイトに案内しました。梁乃申氏は、土壌CO2フラックスとその温暖化への反応を継続的にモニタリングするための独自のチャンバーシステムを紹介しました。その後、日本の研究チームが土壌サンプリング方法のデモンストレーションを行いました。
FNCA2024気候変動(森林土壌炭素放出評価)プロジェクトワークショップ
会議報告
2024年10月15日〜17日
日本、広島
セッション1
文部科学省(MEXT)の中原里紗氏(研究開発局研究開発戦略官(核融合・原子力国際協力担当)付行政調査員)より歓迎の挨拶があり、続いて日本FNCAコーディネーターの玉田正男氏から開会の挨拶があった。
セッション2
日本プロジェクトリーダーである永井晴康氏がプロジェクトの概要(背景、目的、ビジョン、目標、全体スケジュール)を説明した。プロジェクト初年度の成果がまとめられた後、本ワークショップで議論される主なトピックが説明された。
セッション3
参加8か国より、カントリーレポートが発表された。
中国
土壌有機炭素(SOC)の滞留時間と動態は、SOC循環の動態を評価する上での重要な指標である。現在は14Cが、数十年から数千年という長期間にわたるSOCの動態を把握できる唯一のツールである。この報告では、中国の森林土壌におけるSOCの滞留時間と動態変化に関する放射性同位体14Cの応用についてのケーススタディを示す。その内容は、サンプリングの規模におけるSOC滞留時間の変化と影響要因、リター分布の空間的不均一性がSOC滞留時間に及ぼす影響、標高勾配に沿った土壌微生物炭素の動態変化、気候勾配に沿った自然林における生物群集構造と有機炭素動態、および森林土壌における微生物有機炭素の回転状況に森林転換が及ぼす影響などである。さらに、中国におけるFNCAプロジェクトに関連する進捗状況、計画、土壌輸出についても報告する。全体として中国では14C技術の応用に対して高い潜在性がある。この報告は、中国の森林土壌における14Cの応用をFNCAプロジェクトと統合してアジア規模でSOC特性の研究に共同で寄与し、炭素循環が地球温暖化に及ぼすフィードバック効果を予測することを目的としている。
インドネシア
当研究所では、2017年からC-13同位体とRN-222を組み合わせて用いた土壌からのCO2排出評価の研究を行っている。ただしこの研究は地球温暖化の研究というよりも、浸透層の解明に焦点を当てている。FNCAプロジェクト(ECEFS)の状況については、ジャワ島でサンプリングを行うサイトを2か所選定した。一つ目のサイトは標高800 mの熱帯亜山地林である西ジャワに位置する(優先)。二つ目のサイトは、標高約1,200 mの熱帯林でもある東ジャワに位置している。この両サイトは平均年間降水量が2,000 mmを超える。サンプリングキットがまだ到着していないため、サンプリング活動はまだ行われていない。
日本
私たちは、プロジェクトの参加者全員が統一された方法で土壌サンプリングと土壌培養に関する実験研究を行うことができる実験キットを開発した。そして、森林土壌からのCO2排出量と気温上昇に対するその感受性に関するアジア規模のデータを構築するために、このキットを参加国に配布した。日本では、土壌サンプルやガスサンプルを分析し、アジアの森林土壌からのCO2排出量を制御する要因を調査する研究チームを結成した。
カザフスタン
土壌からの二酸化炭素排出の研究は、乾燥気候によってこの問題が深刻化しているカザフスタンにとって重要である。私たちの研究所といくつかの研究サイトがかなり離れているため、Bayanaul、Dolon、Kanonerkaの3つの研究サイトのみを残すことを提案する。これにより、FNCAの実験指示書に従いサンプリングの日に培養実験を始めることができる。私たちは2024年にDolonとKanonerkaの2つの研究サイトから土壌サンプルを収集した。ただしこれは国立原子力センターにとって比較的新しいトピックであり、私たちはこの分野でより経験豊富な組織と協力していく予定である。
マレーシア
二酸化炭素(CO2)が気候変動と地球温暖化の主原因であることはすでによく知られている。しかし大気中へのCO2の放出は、人為的な産業革命によるものだけではなく、森林土壌の土壌有機炭素(SOC)の微生物分解などの自然プロセスによっても引き起こされる可能性がある。マレーシアは国土の半分以上が森林で覆われている。森林のほとんどは東マレーシア、すなわちボルネオ島に位置しており、西の半島部の方が森林は少ない。マレーシアの森林の大部分は、さまざまな種類のフタバガキ林で構成されており、泥炭湿地林とマングローブ林がそれに続く。森林土壌による炭素排出量への寄与を評価するというFNCAプロジェクトのニーズと目標を満たすため、森林土壌の収集地として低地ではDengkilとBukit Merah、高地ではCameron Highlandの3か所が特定された。Dengkilの土壌は2024年9月に収集された。このサンプルは調製され、さらなる分析のため日本に送る準備ができている。また現地の特性を調査するため追加サンプルも収集された。他の2か所でのサンプリングは来年開始予定である。これらの全データがプロジェクトに寄与でき、陸上生態系の炭素循環の理解に役立つことが望まれる。
フィリピン
プロジェクトチームは、在来種の混合林が支配的な熱帯多雨林の5か所のサイトを選定した。これらの地域は、年間平均気温がほぼ同じ約27℃で、年間降水量は2,200 mm超である。選定されたサイトは、1) Baybay(Leyte州)のVSU、2) Cuyambay、Tanay(Rizal州)、3) Rodriguez(Rizal州)、4) Payatas(Quezon市)、5) Lagro(Quezon市)である。初回現地視察と予備調査はすでに実施済である。土壌サンプルが収集され、各サイトから採取された4つの複合サンプルと、かさ密度測定用のコアサンプルの複製を用いて、その土壌サンプルを類型化した。この土壌サンプルを風乾し、土壌粉砕機を使って粉砕して2 mmと0.425 mmのメッシュでふるいにかけた。収集した土壌サンプルの物理化学的特性(保水力、かさ密度、質感、粒団の安定性、pH、電気伝導性、有効リン、置換性塩基、置換性酸とアルミニウム、有効陽イオン交換容量、塩基飽和度、有効微量栄養素、および全元素分析)の分析が、標準的な方法論に従って行われた。各サイトで収集する新鮮な土壌サンプルの培養は2024年11〜12月に開始する。ガスと土壌のサンプルを培養実験により収集し、さらなる分析のため日本に送る予定である。
タイ
森林土壌における炭素循環とその地球温暖化への対応を研究するために、安定炭素同位体と放射性同位体(14C)をトレーサーとして用いた統合アプローチを、タイ北部のPhrae県において実施することが決定された。Den Chai郡の落葉性フタバガキ林(Mae Pak Phan森林:北緯17度59分4秒、東経99度38分57秒)とRong Kwang郡の混合林(Mae Khum Mee森林:北緯18度15分36秒、東経100度14分2秒)という2つの調査サイトが選定された。両地点の主な土壌の種類は、アクリソール、フルビソル、アレノソルである。初のサンプリングキャンペーンは2025年2月初めに計画されており、安定炭素同位体と環境パラメーターのさらなる分析が行われる予定である。タイ国家原子力技術研究所(TINT)の森林エリアにおいて実験キットの試験が問題なく行われた。最近タイ北部では深刻な洪水が発生したため、研究資金が削減された。しかし2025年に再び資金援助を要請する予定である。
ベトナム
2024年、私たちはプロジェクトを実施する中で複数の実験林土壌サンプルを収集した。サンプルを収集した地域は、Nam Cat Tien国立公園、Lam Dong省のBidoup – Nui Ba国立公園、Ninh Thuan省のNui Chua国立公園などがある。近い将来、残りの2か所(Yok Don国立公園とPhong Nha-Ke Bang国立公園)からも引き続きサンプルを収集する予定である。日本にサンプルを送る計画は、現地の研究チームと協議の上策定される予定である。
セッション4
日本原子力研究開発機構(JAEA)の小嵐淳氏が基調講演を行い、国立環境研究所(NIES)の梁乃申氏による森林土壌からのCO2排出に関する講義が行われた。続いて研究計画と実験スケジュールについての議論が行われた。
議論の後、参加者は次の事項を確認した。
- 気候変動とSOCの動態に関する科学的知識が共有され、参加者は、プロジェクトで何を行い、気候変動研究にどのように貢献できるかを理解した。
- 実験キットの詳細な使用手順と問題が検討され、参加者は、手順(培養実験開始時期、サンプルの保管方法、日本へのサンプル送付時期など)と問題への対応方法を確認した。
- 実験スケジュールでは、日本へのサンプル送付期限を2025年6月に変更し、確認した。各参加者は、日本チームと緊密に連携しながら、選定した研究サイトで実験キットを使って実験を開始する。
- 実験キットの輸入と土壌サンプルの輸出の手順における問題点を話し合い、各参加者とJAEAは個々のケースを検討して具体的な行動をとることで合意した。例えば、輸出入手順に関する文書を作成する、実験キット送付の代替方法を検討する、などである。
セッション5・6
参加者全員が、ワークショップの議事録を検討し、合意した。
FNCA日本アドバイザーの和田智明氏より閉会の挨拶があり、参加者全員の取り組みと貢献に謝意が伝えられた。
FNCA2024気候変動(森林土壌炭素放出評価)プロジェクトワークショップ
プログラム
2024年10月15日〜17日
日本、広島
10月15日
10:00-10:15 |
セッション1:開会セッション
- 歓迎挨拶:中原里紗氏(文部科学省)
- 開会挨拶:玉田正男氏(日本FNCAコーディネーター)
- 自己紹介
- 写真撮影
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10:15-10:30 |
セッション2:気候変動(森林土壌炭素放出評価)プロジェクトの概要
プロジェクトの概説と目標:
永井晴康氏(日本プロジェクトリーダー) |
10:30-11:30 |
セッション3:気候変動(森林土壌炭素放出評価)にかかる国別報告
- 中国
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11:30-13:00 |
昼食休憩 |
13:00-15:00 |
セッション3(続き)
- インドネシア
- 日本
- カザフスタン
- マレーシア
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15:00-15:30 |
休憩 |
15:30-17:00 |
セッション3(続き)
- フィリピン
- タイ
- ベトナム
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10月16日
10:00-11:30 |
セッション4:研究計画について討議
発表:小嵐淳氏(JAEA)、梁乃申氏(環境研究所)
討議 |
11:30-13:00 |
昼食休憩 |
13:00-14:20 |
セッション5:議事録作成 |
14:20-14:30 |
セッション6:ワークショップのまとめ
閉会挨拶:和田智明氏(日本FNCAアドバイザー) |
10月17日 オープンセミナー「気候変動」
09:30-09:35 |
開会挨拶:中嶋翔梧氏(文部科学省) |
09:35-10:00 |
アジア原子力協力フォーラム(FNCA)の活動
玉田正男氏(日本FNCAコーディネーター) |
10:00-10:30 |
アジアの森林土壌が握る膨大な炭素の将来
梁乃申氏(国立環境研究所 シニア研究員) |
10:30-11:00 |
温室効果ガスを放出・吸収する土の中の生き物
近藤俊明氏(国際農林水産業研究センター 主任研究員) |
11:00-11:30 |
加速器質量分析による14Cの測定
松崎浩之氏(東京大学 教授) |
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13:45-16:30 |
テクニカルビジット(フィールドワーク)
東広島市にある「温暖化操作実験サイト」へ移動
温暖化操作実験サイトにおけるフィールドワーク |
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FNCA2024気候変動(森林土壌炭素放出評価)プロジェクトワークショップ
参加者リスト
2024年10月15日〜17日
日本、広島
中国
Dr. Yanzhi Wang
Assistant Researcher,
Institute of Applied Ecology, Chinese Academy of Sciences
インドネシア
Mr. Rasi Prasetio
Center for Research and Technology of Radiation Process,
National Reseacrh and Innovation Agency (BRIN)
カザフスタン
Dr. Yelena Polivkina
Head of Laboratory of Radioecological and Biogeochemical Research,
Branch “Institute of Radiation Safety and Ecology” of National Nuclear Center of the Republic of Kazakhstan (NNC)
日本
永井 晴康
日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所
原子力基礎工学研究センター 副センター長
梁 乃申
国立環境研究所
地球システム領域 シニア研究員
石塚 成宏
森林研究・整備機構
森林総合研究所 企画部研究企画科長
市井 和仁
千葉大学
環境リモートセンシング研究センター 教授
小嵐 淳
日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所
原子力基礎工学研究センター 研究主席
永野 博彦
新潟大学
自然科学系 農学系列 助教
松崎 浩之
東京大学
総合研究博物館 タンデム加速器分析室 教授
玉田 正男
FNCA日本コーディネーター
和田 智明
FNCA日本アドバイザー
中嶋 翔梧
文部科学省
中原 里紗
文部科学省
近藤 俊明
国際農林水産業研究センター 主任研究員
土屋 陽子
東京大学タンデム加速器研究施設 技術専門職員
阿部 有希子
日本原子力研究開発機構 博士研究員
安藤 麻里子
日本原子力研究開発機構 研究主幹
山貫 緋称
千葉大学
鈴木 優里
新潟大学
野村 智之
原子力安全研究協会
河本 美奈子
原子力安全研究協会
マレーシア
Mr. Yii Mei Woo
Research Officer,
Malaysian Nuclear Agency
Dr. Lakam Anak Mejus
Research Officer,
Malaysian Nuclear Agency
Ms. Nooradilah Binti Abdullah
Research Officer,
Malaysian Nuclear Agency
フィリピン
Mr. Roland V. Rallos
Senior Science Research Specialist,
Philippine Nuclear Research Institute (PNRI)
タイ
Mr. Wutthikrai Kulsawat
Researcher (Nuclear Scientist)
Nuclear Research and Development Center
Thailand Institute of Nuclear Technology (TINT)
ベトナム
Mr. Phan Quang Trung
Deputy Head of Department,
Department of Nuclear and Isotopic Techniques,
Dalat Nuclear Research Institute,
Vietnam Atomic Energy Institute
Ms. Nguyen Thi Huong Lan
Researcher,
Dalat Nuclear Research Institute
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